les signes parmi nous

堀 潤之(Junji HORI) 映画研究・表象文化論

佐々木敦『ゴダール原論』書評

佐々木敦氏によるゴダール『さらば、愛の言葉よ』(2015)のスリリングな読解の書『ゴダール原論』(新潮社、2016年1月)の書評を、先日『産経新聞』に寄せたのに引き続いて、今日発売される『週刊読書人』にも書いた。前者のものはウェブ上でも読める

ゴダール原論: 映画・世界・ソニマージュ

ゴダール原論: 映画・世界・ソニマージュ

ゴダールの異形の3Dの使用法を読み解くための補助線として、本書ではジョナサン・クレーリーの『観察者の系譜』(遠藤知巳訳、以文社、2005年)に加えて、赤瀬川原平の『ステレオ日記――二つ目の哲学』(大和書房、1993年)と吉村信・細馬宏通編著の『ステレオ――感覚のメディア史』(ペヨトル工房、1994年)が参照されているのだが、特に後者はめっぽう面白い。

コラム形式で、チャールズ・ホイートストンの両眼視の実験から、カイザーパノラマに言及するベンヤミン、近眼の人を「物のさとりがわる」く「常識に欠けて居るといふようなことがある」と強弁する正岡子規を経て、ステレオ写真家としてのハロルド・ロイド伊藤大輔ムルナウに至るまで、思わずさらに掘り下げたくなる興味深いエピソードが満載だ。3D映画を考えるにあたっても、ぜひ再読されるべき本である。